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実は健康維持に不可欠! 腸内細菌がつくる「酪酸」

菌の真実

2022.11.02

私たちの腸に存在しているといわれる100兆個もの腸内細菌。

その腸内細菌と私たちは共生関係にあります。

腸内細菌は、腸という快適な住処と食物繊維などの栄養源を提供してもらう見返りに、私たちの健康維持に不可欠なさまざまな物質をつくってくれているのです。

そのような物質の代表格が、短鎖脂肪酸の一種である酪酸(らくさん、英: butyric acid)。

実はこの酪酸、私たちが健康を維持していくうえで、とても重要な物質なのです。

今回のコラムでは、腸内細菌によってつくられる酪酸が、私たちの健康維持に果たす役割についてお話しします。


酪酸をつくる「酪酸産生菌」

まずは、「酪酸産生菌」についてご紹介しましょう。

腸内細菌のうち、酪酸を産生する(つくる)能力をもつものを酪酸産生菌(酪酸菌)と呼びます。

酪酸産生菌は、大腸まで届いた食物繊維やオリゴ糖、レジスタントスターチなどを消費し、最終的な代謝産物として酪酸を産生します。

フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属やアナエロスティペス(Anaerostipes)属、アガトバクター(Agathobacter)属など、多くの酪酸産生菌が存在しており、酪酸の産生量は、腸内細菌がつくる代謝産物のなかでも比較的多いといえます。

この酪酸、実は口から摂取しても、胃や小腸で吸収されてしまい、大腸にはほとんど届きません。

だからこそ、大腸で酪酸を産生する酪酸産生菌は重要な存在なのです。


健康に貢献する酪酸の役割

では酪酸は、私たちの健康維持にとって、どのような機能を担っているのでしょうか。

ひとつには、食物アレルギーや炎症の原因となる過剰な免疫反応が起こらないように調節する働きがあります。

がん化した細胞の自殺(アポトーシス)を促して大腸がんを予防したり、抗炎症作用によって腸管の炎症抑制にも貢献。

さらに、エネルギー代謝系や免疫系の制御、恒常性維持などにも役立っています。

また、酪酸は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源であり、大腸が正常に機能するのに欠かせない物質です。

腸には、有害な菌や物質などが体内へ侵入しないようにするバリア機能がありますが(コラム「腸は、病原菌やウイルスから体を守る最前線」参照)、この機能を修復して強化する役割も担っています。

ただし、腸のバリア機能を強化させる酪酸の濃度には適切な範囲があることが知られており、酪酸の濃度が高くなりすぎると、アポトーシスを誘発して腸のバリア機能を破壊する可能性もあると報告されています。

そのため、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合は、多すぎず、少なすぎない、適切なバランスを保つことが大切なのです。

さらに、脳と腸は互いに影響を及ぼし合うこと(脳腸相関)が明らかになりつつあり、酪酸も脳腸相関を介して宿主の脳に影響を及ぼすと考えられています。

しかしながら酪酸が脳腸相関を介して脳に及ぼす影響については、まだまだ未解明な部分が多いため今後のさらなる研究が期待されます。


最後に

今回は、酪酸が私たちの健康維持に果たす機能についてお話ししました。

酪酸の重要性や、それをつくる酪酸産生菌の大切さについても、お分かりいただけたのではないでしょうか。

酪酸は、その濃度が適量であれば、私たちの健康の維持・増進に役立ちますが、ディスバイオシスが起こり、酪酸産生菌が減少あるいは増加し、酪酸の産生量が不足あるいは過剰となった場合には、体調不良や病気につながることも想像できたと思います。
(コラム「さまざまな病気を引き起こす、ディスバイオシスに要注意!」参照)

このディスバイオシスを引き起こさないためには、規則正しい生活、食物繊維などが豊富でバランスのよい食事、十分な睡眠、適度な運動、前向きな気持ちで、楽しく毎日を送ることが効果的。

酪酸産生菌とうまく共生し、酪酸による恩恵を十分に受けて、健やかな毎日を送りたいものですね。



参考文献
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早川盛禎. ファルマシア 50, 815 (2014).
原博. 腸内細菌学雑誌 16, 35–42 (2002).



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