健腸ナビ

腸に影響を及ぼす薬は、抗生物質だけではない!

菌と健康

2023.09.27

私たちの健康にとって腸内細菌叢(腸内フローラ)が、いかに重要であるか。

この「健腸ナビ」のコラムでも繰り返しお伝えしてきました。

そして今回は、病気にかかってしまい、その治療のために服用する薬のお話です。

実は、薬の服用により腸内細菌叢が大きな影響を受けることが近年の研究で明らかになってきました。

細菌の生育を抑制する薬である抗生物質の影響については、以前(コラム「抗生物質が腸内細菌叢を乱す!?」参照)お伝えしましたので、今回は抗生物質以外の薬について、そしてさらには複数の薬を組み合わせて服用することによる腸内細菌叢への影響についてもご説明します。


特定の薬による腸内細菌叢の変化

国内外で行われた研究において、腸内細菌叢に影響を与えることが明らかになった薬には、抗生物質以外にプロトンポンプ阻害剤、メトホルミン、下剤などがあります。

それではまず、これらの薬について以下に詳しくご紹介いたします。


■プロトンポンプ阻害剤

プロトンポンプ阻害剤は、胃酸の分泌を抑える経口薬。
消化性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの治療に使用されます。

服用すると胃酸が減少し、口腔内の細菌が腸内へ移動・定着できるようになり、その結果、もともと腸内に存在していた細菌が減少して、腸内細菌叢が変化する可能性があります。

そのため、プロトンポンプ阻害剤の服用者では、口腔内に存在するストレプトコッカス(Streptococcus)属、ロシア(Rothia)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、マイクロコッカス(Micrococcaceae)科の細菌などが腸内で増加する傾向があります。

また、抗生物質だけでなくプロトンポンプ阻害剤の服用も、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)感染症の発症リスクを高める可能性があることが報告されています。

■メトホルミン

メトホルミンは、肥満を伴う2型糖尿病の治療に使用される経口薬。
血糖降下作用などがあります。

2型糖尿病にかかっている人は腸内細菌叢の変化が観察されることが知られていて、その変化は病気自体によって引き起こされると以前は考えられていました。

しかし、実際にはメトホルミンの服用によるものである可能性があります。

近年、神戸大学の研究グループによって、メトホルミンには「血液中のブドウ糖を大腸から便の中に排泄させる」作用があることが示されました。

このことから、メトホルミンの服用によって大腸に排泄されるブドウ糖が、ブドウ糖を栄養源として利用する特定の腸内細菌を増やすことにつながっている可能性が考えられます。

また、海外の別の研究では、メトホルミンを服用することでエシェリキア(Escherichia)属の腸内細菌が増加し、インテスティニバクター(Intestinibacter)属の腸内細菌が減少したことが報告されています。

メトホルミンを服用すると、下痢、腹部膨満感、吐き気といった胃腸系の副作用が起きることも知られていますが、もしかするとこれらの症状は、このような腸内細菌叢の乱れが一因となっているのかもしれません。

■下剤

下剤のひとつ、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とした浸透圧性下剤は、浸透圧の違いを利用して腸内で水分分泌を引き起こすことで、便を軟化させ、排便回数を増加させます。

この浸透圧性下剤は、腸内細菌叢に短期および長期の影響を与える可能性があります。

ヒトでの詳細な研究は不足していますが、マウスを使った実験では、PEG投与により腸内細菌叢が変化することと、それが腸の浸透圧の乱れによる間接的な結果である可能性が示唆されています。

そして、その腸内細菌叢の変化は投与後数週間経っても持続する傾向が報告されています。


以上のように、特定の薬の服用により腸内細菌叢に影響があることがわかります。

また、試験管レベルで1,000を超える市販薬を調査した研究によると、その24%が腸内細菌の増殖を阻害することも報告されています。


腸内細菌叢に悪影響を与える“薬の併用”

治療のために薬を服用する際、人によっては複数の薬を同時に飲むこともあるかもしれません。

そうした薬の併用や、服用する量が多くなることによって、服用している人に不利益(薬物有害事象)が生じることがありますが、これはポリファーマシーと呼ばれています。

日本人約4,200例を対象とした研究では、服用する薬の種類が増えるにつれて腸内に日和見感染症を引き起こす病原菌が増えるなど、好ましくない変化が起きることが報告されています。

こうした複数の薬の併用による腸内細菌叢への悪影響によって、ポリファーマシーが生じることもあるようです。


薬で変化した腸内細菌叢を回復するには?

では、服用した薬によって変化した腸内細菌叢は、そのままずっと戻らないのでしょうか。

これについては心配なところですが、服用を中止することで元に戻す、またはその影響を減らすことができる可能性はあるようです。

これまでに、プロトンポンプ阻害剤の服用によって増加した日和見感染症を引き起こす病原菌が、その服用を中止することにより減少したと報告されています。

また、服用する薬の量が多い人では、ストレプトコッカス属やラクトバシラス(Lactobacillus)属などの腸内細菌が増加し、特定の代謝経路に関わる遺伝子が増加しましたが、薬の量を減らすことでこれらの腸内細菌や遺伝子が減少したと報告されています。

このように、医師や薬剤師とともに服用する薬について再検討し、もし不必要な薬があれば、その服用を中止することで腸内細菌叢を回復できるかもしれません。


最後に

ここでは、抗生物質以外の薬であっても腸内細菌叢を変化させる場合があることを紹介しました。

ただし、病気の治療には処方にもとづく薬の服用が大切です。

自己判断で薬の量を減らしたり、服用をやめたりすることはおすすめしません。

薬について気になる場合は、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。

また、現在の服薬による腸内細菌叢への影響が気になる方は、一度自身の腸内細菌叢を検査してみてもいいかもしれません。


参考文献
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・Morita, Y. et al. Diabetes Care 43, 1796–1802 (2020).



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