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腸から花粉症を治す? アレルギー治療の研究は進む!

菌と健康

2022.10.06

花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーといったアレルギー性疾患が、腸内細菌に働きかけることで治療できるかもしれない。

前回のコラムでお話ししたように、アレルギー性疾患と腸内細菌の間には関連性があることが明らかになってきており、腸内細菌がアレルギー性疾患治療の新たな“カギ”になるとの期待も高まっています。
(コラム「花粉症やアトピーも、実は腸内細菌が関係している!」参照)

そこで今回は、腸内細菌叢を介したアレルギー治療法の開発に向けて、どのような研究が行われているのかをご紹介します。


腸内細菌を介したアレルギー治療法の可能性

まずは花粉症の治療法に関する研究について。

スギ花粉症の症状は、特定のプロバイオティクスを摂ると緩和する可能性があります。

日本のスギ花粉症患者が、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum) BB536株を含むヨーグルトを毎日継続的に摂取したところ、鼻水や鼻づまりといった花粉症の症状が軽減されたというのです。

また、腸内において、花粉症の症状の悪化につながるとされる腸内細菌(バクテロイデス フラジリス[Bacteroides fragilis]など)の増殖が抑制されたそうです。

続いてはアトピー性皮膚炎に関して。

特に乳児のアトピー性皮膚炎に関しては、乳児期初期に腸内細菌「クロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile[現在の分類ではクロストリジオイデス ディフィシル〈Clostridioides difficile〉])」が腸内に定着して発症に関連する可能性があることや、生後1カ月での腸内細菌叢の多様性の低さが2歳での発症に関連していることなどがわかっています。

乳児での発症を予防する方法としては、母親が出産前後にプロバイオティクス(ラクトバシラス[Lactobacillus]属とビフィドバクテリウム属の菌株)を摂取すると効果があったという報告があります。

そして、もうひとつご紹介したいのが、食物アレルギーの治療法について。

小児、特に低年齢児に多くみられる食物アレルギーは、発症や経過に腸内細菌叢が重要な要因となっていると考えられていますが、たとえば牛乳アレルギーの自然経過を生後3カ月から8歳まで追跡調査した研究からは、以下のことが報告されています。

牛乳アレルギーが自然に改善された子どもの腸内細菌叢は、クロストリジア(Clostridia)綱とファーミキューテス(Firmicutes[現在の分類ではバシロータ〈Bacillota〉])門が豊富であることから、どうやらこれらの腸内細菌が牛乳アレルギーの改善に関連しているらしいこと。

また、治療法に関する研究では、牛乳アレルギーの子どもにプロバイオティクスとしてラクトバシラス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus[現在の分類ではラクティカゼイバシラス ラムノサス〈Lacticaseibacillus rhamnosus〉]) GG株と、加水分解されたカゼインを組み合わせて摂取させた結果、牛乳アレルギーの改善を早められたことが報告されています。

ほかの食物アレルギーの治療法としては、ピーナッツアレルギーの子どもを対象に、プロバイオティクス(ラクトバシラス ラムノサス)の摂取による治療と、ピーナッツ経口免疫療法を組み合わせることで効果を示したという研究報告もあります。


治療のために糞便を移植!?

さて、みなさんは糞便移植(FMT)について聞いたことはありますか?

糞便移植は、健常者から提供された糞便中の腸内細菌を患者に移植するなどの方法で、腸内細菌叢を変化させる治療法です。

アレルギー治療に関しては、2017年に中国の研究チームによって、アレルギー性腸炎の小児19名に対して実施され、症状の緩和と腸内細菌叢の顕著な変化がみられたことが報告されています。

ただし、現在の糞便移植には、感染症などの伝播リスクや健常なドナーの確保など、さまざまな課題が存在しているのも事実です。


今後の展望

このように、腸内細菌叢を介したアレルギー治療は、いままさに世界中で研究が進められているところですが、わたしたちが実際に治療として受けられるようになれば、一人ひとり異なる腸内細菌叢に合わせて最適な治療法を選択したり、カスタマイズしたりする“個別化医療”となるでしょう。

近い将来、アレルギー性疾患に対しては、病院で腸内細菌叢の検査を受け、その結果をもとに、それぞれの腸内細菌叢に合わせたオーダーメイドの治療が施されるようになるかもしれません。


参考文献

Liu, S.-X. et al. World J. Gastroenterol. 23, 8570–8581 (2017).
Lunjani, N. et al. Allergy 73, 2314–2327 (2018).
Odamaki, T. et al. Appl. Environ. Microbiol. 74, 6814–6817 (2008).
Xiao, J.-Z. et al. Clin. Exp. Allergy 36, 1425–1435 (2006).
水野慎大, 金井隆典. 日本内科学会雑誌 107, 2176-2182 (2018).



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