腸内細菌を介した月経前症候群(PMS)対策とは?
菌と健康
月経前になると気分が落ち込んだり、イライラしたり、頭痛がしたり、体がむくんだり……、そんな不調に心当たりのある女性は多いのではないでしょうか。
いま日本では、月経のある女性の70~80%が月経前に何らかの不調を感じており、およそ20人に1人は日常生活に支障があるほどの症状を感じる月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)に悩まされています。
PMSである場合、月経前の3〜10日間に精神的あるいは身体的な不調が起こり、月経がはじまるとその不調は消えていく、ということが数か月続きます。
今回は、このPMSと腸内細菌の関係についてお話しします。
PMSの治療方法
ではまずPMSは、なぜ起こるのでしょう?
実は、女性ホルモンの変動や、セロトニンなどの神経伝達物質の異常、食生活との関連などが指摘されていながらも、いまだはっきりとした原因はわかっていないのです。
そのため、不調に対する対症療法が主な治療方法となり、日本では鎮痛薬や漢方薬などが使用されています。
低用量の経口ホルモン剤を用いることもありますが、症状が改善しない場合もあるようです。
そのほか、カウンセリングや食事療法、生活習慣の改善、運動療法など、さまざまな治療法があるものの、効果には個人差があり、根本的な治療薬も発見されていないというのが現状です。
PMSと腸内細菌の関係
そんななか明らかになってきたのが、婦人科系の病気と腸内細菌の関係性。
たとえば、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)という腸内細菌との関連が指摘され、子宮筋腫はシュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)とプレボテラ・アムニー(Prevotella amnii)との関連が報告されています。
これらのことから、同じ婦人科系の病気であるPMSについても、腸内細菌と関連する可能性が考えられます。
そこで当社では、PMSと腸内細菌の関係性を明らかにするため、PMSに悩む日本人女性(PMS群)と健康な日本人女性(対照群)の腸内細菌叢(腸内フローラ)を比較する研究に取り組み、2022年にその成果を論文発表しました。
当社による研究の結果わかったのが、PMS群は特徴的な腸内細菌叢を保有していること。
PMSに悩む女性は、健康な女性に比べてコリンセラ(Collinsella)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ブラウティア(Blautia)属が多かったのです。
これら3つの腸内細菌は、いずれも糖を分解することが知られています。
一方で、PMS群は対照群に比べて菓子類の摂取量が有意に多くなっていたこと、また、糖を摂取することにより一時的に血糖値が上がっても、その後急激に低下することで疲労感、憂うつ感など、不安定な気分になることが報告されていることから、当社は、PMSの精神的な症状を悪化させる原因の一つには、腸内細菌が糖を分解することによる血糖値の急激な変化があるのではないかと考えています。
また、これらの腸内細菌のなかでも、特にPMSとの強い関連性が示されたのがコリンセラです。
コリンセラは、多くの日本人が保有する腸内細菌ですが、PMS以外にも、動脈硬化、高脂血症、高血圧、2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎の患者の腸内に多いことが報告されています。
いくつかの病気に関連することも考慮すると、PMSの予防や改善にはコリンセラをターゲットとしたプレバイオティクスを取り入れるなど、食生活の見直しが効果的だといえます。
腸内細菌を介したPMS対策
腸内細菌は食事の内容によって変動します。
たとえばコリンセラは、赤身肉などの動物性たんぱく質の摂取量が多い人や、食物繊維の摂取量が少ない人で占有率が高いと報告されています。
これまでお話ししたような腸内細菌との関連を考えると、PMSの予防や改善のためには、バランスのよい食事内容を日々心がけることが大切だといえるでしょう。
ただし、すでにPMSの症状がつらくて悩んでいる方は、医療機関を受診することが第一です。
まずは婦人科など専門医にご相談ください。
参考文献
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