腸内環境を整えて、片頭痛を予防!
菌と健康
ジメジメと湿度が高く、気温も気圧も変動が激しい梅雨の時期は、体調を崩しがちです。
なかでも「頭痛」に悩まされている人は多いのではないでしょうか。
頭痛には、脳炎や脳梗塞といった病気によるものと、明らかな病気ではないにもかかわらず発生するものに大きく分けられますが、後者の代表的なものに「片頭痛」があります。
片頭痛とは、頭の片側または両側が、脈を打つようにズキズキと痛むもの。
さまざまな原因が考えられていますが、まだ根本的な治療法がないため、痛み止めの薬を飲んだり、マッサージで血流を促進したりして、痛みをやわらげることが多いようです。
実はこの片頭痛も、腸内細菌叢(腸内フローラ)との関係について研究が進められています。
片頭痛のメカニズムと腸内細菌叢との関係
まず、片頭痛の発生には主に神経の刺激や炎症、脳の血管拡張が関わっていると考えられていて、これらの反応には「セロトニン」などの神経伝達物質が関与していることがわかっています。
このセロトニンが一時的に大量放出されたあと、不足してしまうことが片頭痛を引き起こす原因ともされており、現在使われている主な片頭痛治療薬にセロトニンの働きを調整するタイプが多いのはそのためです。
セロトニンは、腸内細菌が産生するトリプトファンの代謝産物や、腸粘膜細胞から生成される5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を材料としてつくられます。
つまり、脳でのセロトニン生成には腸内細菌叢が影響しており、腸内細菌叢のバランスが崩れると片頭痛を引き起こしてしまう可能性があるのです。
また、腸内細菌がつくる「酪酸」が片頭痛に関係しているとも考えられています。
酪酸は、腸粘膜の保護、修復、バリア機能の維持などに役立つ短鎖脂肪酸です。
(コラム「実は健康維持に不可欠! 腸内細菌がつくる「酪酸」」参照)
腸内細菌叢のバランスが崩れて酪酸産生菌(酪酸菌)が減少し、腸内の酪酸濃度が低下すると、バリア機能が弱まり、腸内の有害物質が血液に流れ込んで、頭痛が引き起こされる可能性があります。
実際に多くの研究でも、頭痛と消化器系の炎症性疾患との関連性は数多く報告されています。
大切なのは酪酸産生菌をバランスよく保持し、腸のバリア機能を正常に保つこと。
そうすることで、片頭痛を抑制できるかもしれないのです。
片頭痛と腸内細菌に関する研究
では、片頭痛罹患者の腸内細菌叢にはなにか特徴があるのでしょうか。
ウクライナにおける片頭痛罹患者112名に対して行われた研究では、腸内細菌ブラウティア・コッコイデス(Blautia coccoides)が少ないほど痛みが強いことが示されました。
中国の研究においては、片頭痛罹患者は健康者に比べ、炎症の悪化に関連する7菌種(クロストリジウム[Clostridium]属の菌種)が多く、酪酸を産生する2つの菌種(フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ[Faecalibacterium prausnitzii]とメタノブレヴィバクター・スミシー[Methanobrevibacter smithii])が少ないことが示されています。
これらの研究からもわかるように、片頭痛罹患者の腸内細菌叢には特徴があるようです。
腸内細菌叢から取り組める頭痛対策とは?
最後に、頭痛に対するプロバイオティクスの有効性が評価された例をご紹介します。
対象となったのは頭痛の回数が月平均7回程度の片頭痛罹患者27名。
混合プロバイオティクスサプリメント(ビフィドバクテリウム[Bifidobacterium]属、ラクトバシラス[Lactobacillus]属、ラクトコッカス[Lactococcus]属の菌種の混合)を12週間摂取した結果、約67%で摂取前と比べて頭痛の回数が減り、頭痛による生活の支障も軽減されたと報告されています。
同様のサプリメントを摂取した別の研究でも、摂取した人は摂取していない人よりも頭痛の回数が減り、痛みも軽くなり、頭痛治療薬の服用頻度が約半分に減ったそうです。
また、マウスにBifidobacterium属(Bifidobacterium breve CCFM1025)を投与したところ、腸粘膜培養細胞において5-HTPが多くつくられたという報告があります。
前述のように5-HTPはセロトニンの材料であることから、このプロバイオティクスの摂取は脳でのセロトニンの生成に役立っていると考えられます。
つまりプロバイオティクスの摂取は片頭痛の症状の改善に役立つ可能性があるといえるでしょう。
一方で、食物繊維の摂取量が多いほど頭痛の頻度が低くなる傾向にあることや、脂質を制限することで頭痛の回数が減り、痛みが軽減するなどの研究結果も示されています。
酪酸に関しても、食物繊維の摂取によって腸内での酪酸の産生が促進されることや、脂質の多い食事ほど酪酸産生菌が減少することから、食物繊維が多く、脂質の少ない食事を意識することで、腸内から頭痛予防ができそうです。
当社で提供している腸内細菌叢の検査・分析サービス「健腸ナビ」では、腸内細菌叢から片頭痛・頭痛のリスクを分析し、リスクが中・高の場合はリスクを下げるための推奨食品をご案内しています。
また、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合を知ることもできます。
このようなサービスを活用して、自身の腸内細菌叢の状態を知り、普段の食事から片頭痛対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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