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母子の腸内細菌叢②:赤ちゃんの発育に重要!? お母さんの腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸

菌と健康

2023.12.27

本コラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」として、妊娠〜出産〜授乳までの、お母さんと赤ちゃんの腸内細菌叢についてご紹介します。

シリーズ2回目にあたる今回のコラムでは、腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸という代謝産物に着目しました。

短鎖脂肪酸をわかりやすく説明すると、脂肪酸の中でも分子量が小さく、体内でのエネルギー源、腸内環境の改善、抗炎症作用などの作用がある物質です。

私たちの健康維持に必須のものということができるでしょう。

ここでは、妊娠期にお母さんの腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸が、胎児の発育にどのような影響を与えるのかについて詳しく説明します。


お母さんの腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸

近年、妊娠期におけるお母さんの腸内細菌叢が、赤ちゃんの脳や免疫系の発達に影響を与えることや、出生後の子供の疾病、肥満のリスクにも影響を及ぼすことが明らかになってきました1)2)。

腸内細菌の代謝産物は胎盤を通じて、母体からお腹の中の赤ちゃんへと輸送されます。

その中でも特に注目されているのが、短鎖脂肪酸なのです。

腸内細菌の中には、食物繊維を代謝し、酢酸・酪酸・プロピオン酸といった短鎖脂肪酸を産生する細菌がいます。

短鎖脂肪酸には、体内の細胞のエネルギー源としての役割だけでなく、腸内で有害細菌の増殖を抑制する作用や抗肥満作用、抗炎症作用などが期待できます。


短鎖脂肪酸が胎児の脳の発達を調整

腸内細菌によって産生された短鎖脂肪酸は、短鎖脂肪酸受容体(GPR41およびGPR43)を活性化することにより、ミクログリア※aの成熟、ミクログリアとニューロンの相互作用、海馬のシナプス機能など神経の働きにも関与します3)。

これらは脳の発育に重要なものです。

お母さんの食物繊維の摂取量が不足すると、赤ちゃんの脳の発育に必要な短鎖脂肪酸が十分に運ばれず、脳の発達障害を引き起こす可能性があります。

実際に、妊娠中におけるお母さんの食物繊維の摂取量と3歳児の神経発育遅延との関連性を調べた研究によると、妊娠期の食物繊維の摂取量が不足することにより、腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生が減少することがわかっています。

その結果、子供のコミュニケーション能力や問題解決能力など、神経発達の遅延リスクが高まることが示されています4)。

この研究は、日本の76,207組の母子を対象に行われたもので、環境省による「子どもの健康と環境に関する全国調査」のデータを基にしたものです。


短鎖脂肪酸は胎児の免疫の発達にも影響する

お母さんの腸内細菌叢は、短鎖脂肪酸を介して赤ちゃんの免疫の発達にも関与しています。

ある研究によって、腸内細菌により産生される短鎖脂肪酸が、免疫系の発達に関与する胸腺※bの発達、過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞※c(Treg)の分化に必要であることが示されています5)6)。

また、妊娠期に食物繊維の摂取量が多いと、子供の喘息発症リスクが軽減されるとの報告もあります。

これにはTregによる免疫応答の調整が関与している可能性があると考えられています7)。


短鎖脂肪酸により子供の肥満体質を抑制

マウスを用いた研究では、食物繊維をほとんど含まない餌を妊娠中の母親マウスに与えた場合、その母親マウスから生まれてきた子マウスは、成長とともに肥満になり、高血糖・高脂血症などのメタボリック症候群の症状を示すことがわかっています。

一方で、この母親マウスの餌に短鎖脂肪酸を補充したところ、生まれてきた子マウスの肥満が抑えられました2)。

このとき、母親マウスの体内にある短鎖脂肪酸の一部が、血流を介して子マウスに届いたことや、子マウスの交感神経・腸管・膵臓には短鎖脂肪酸受容体が高発現していることが確認されました。

この研究から、妊娠期にお母さんから赤ちゃんへ短鎖脂肪酸が輸送されると、赤ちゃんの体で感知されて短鎖脂肪酸受容体が活性化されることが明らかとなりました。

短鎖脂肪酸受容体の活性化が起こると、赤ちゃんの神経細胞やホルモン分泌細胞の分化、代謝・内分泌系の成熟が進みます。

つまりお母さんの体内において腸内細菌叢により食物繊維から短鎖脂肪酸が産生されることで、胎児期にエネルギー代謝系が整い、子供が肥満体質になりにくくなるのです。


妊娠期に意識すべきこと

妊娠期のお母さんの腸内細菌叢がその代謝産物、特に短鎖脂肪酸を介して、赤ちゃんの発育に影響を及ぼすことを紹介しました。

腸内細菌が短鎖脂肪酸を産生するためには、食べ物に含まれる食物繊維やオリゴ糖などが必要となります。

食物繊維には水溶性と不溶性があるのですが、どちらも野菜類(大根・ごぼう・枝豆・オクラ・グリンピース・ブロッコリーなど)、芋類(さつまいも・里芋・こんにゃく・じゃがいもなど)、豆類(納豆・おからなど)、果物類(バナナ・柑橘類など)に含まれています。

また、オリゴ糖は豆類(大豆など)、野菜類(たまねぎ・ごぼう・ねぎ・にんにく・アスパラガス・ブロッコリーなど)、果物類(バナナ・リンゴ)などから摂取することができます。

これらとは反対に、脂肪分の多い食事は摂り過ぎないように注意が必要となります。

脂肪分の摂取量が多いと、炎症に関連する腸内細菌が増加し、短鎖脂肪酸を産生する細菌が少なくなる傾向があるためです。

以上のことから、妊娠中は、短鎖脂肪酸を増やすために食物繊維やオリゴ糖を適度に摂取し、高脂肪食を控えるという食生活を意識すると良いでしょう。

なお、妊娠中にプロバイオティクス食品やプレバイオティクス食品を摂取すると、赤ちゃんの発育にとって良い影響がある可能性があるとの報告もあるため8)、妊娠中はこのような食品を適度に取り入れるとよいでしょう。

また、食事だけでなく、規則正しい生活や適度な運動で自律神経を整え、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促すことも大切です。

不規則な生活・ストレス・運動不足・抗生物質の服用・妊娠中の喫煙は腸内細菌叢に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です9)10)。
(妊娠期における抗生物質など処方薬の服用については、自己判断をせず、医師に相談してください。)

以上、お母さんの腸内細菌叢が赤ちゃんの発育や将来の子供の成長にどのような影響を与えるのかについて説明しました。

ご自身の腸内細菌叢について知りたいお母さんは、お子さんの健やかな発育のためにも、当社の腸内細菌叢の検査・分析サービス「健腸ナビ」で、短鎖脂肪酸を産生する菌の割合を調べてみることをおすすめします。

普段の食べ物については、神経質になる必要はないものの、無理のない範囲で腸内細菌叢を意識した食生活を送ってみると良いでしょう。


用語説明
※a ミクログリア:脳に存在するグリア細胞の一種。中枢神経系の免疫を担当する。
※b 胸腺:免疫に関わる臓器。Tリンパ球という白血球が成熟する場所で、細胞性免疫や自己免疫疾患の抑制に関与している。
※c 制御性T細胞:免疫抑制細胞の一種。炎症反応やアレルギー疾患、自己免疫疾患などを引き起こすような過剰な免疫応答を抑える。


参考文献
1)Tian, M. et al. Gut Microbes 15, 2206505 (2023).
2)Kimura, I. et al. Science 367, eaaw8429 (2020).
3)Erny, D. et al. Nat Neurosci 18, 965–977 (2015).
4)Miyake, K. et al. Front Nutr 10, 1203669 (2023).
5)Nakajima, A. et al. J Immunol 199, 3516–3524 (2017).
6)Hu, M. et al. Nat Commun 10, 3031 (2019).
7)Gray, L. E. K. et al. Front Immunol 8, 365 (2017).
8)Wiedmer, E. B. et al. Front Nutr 9, 819882 (2022).
9)Su, Y. et al. BMJ Open Diabetes Research and Care 9, e002321 (2021).
10)Zubcevic, J. et al. Metabolites 12, 735 (2022).



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