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経膣分娩と帝王切開。赤ちゃんの腸内細菌は出産方法によって違う⁉ - 母子の腸内細菌叢③出産【前編】

菌と健康

2024.02.01

本コラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」として、妊娠・出産・授乳に至るまでの、母子の腸内細菌叢についてご紹介します。

シリーズ3回目にあたる今回のコラムでは、出産が子の腸内細菌叢に与える影響についてご紹介します。


新生児の腸内細菌叢はいつから形成されるか

赤ちゃんの腸内細菌叢形成は、出産がそのスタートだと考えられています。

妊娠中の胎児については、無菌状態であるという意見とそうではないという意見がありますが、健康な妊娠では胎児の腸内細菌叢の形成は起こらないという意見が現在では主流となっています1)。


出産方法は腸内細菌叢形成に影響を及ぼす要因の一つ

出産をきっかけに、赤ちゃんは様々な細菌にさらされることになります。

赤ちゃんが初めて出会う細菌の種類は、経腟分娩と帝王切開のどちらで産まれるかによって異なります。

そのため、出産方法は赤ちゃんの腸内細菌叢の形成にとって重要な要因であるといえるでしょう2)。


経腟分娩と赤ちゃんの腸内細菌叢

経腟分娩の場合、赤ちゃんは出産時にお母さんの膣内細菌や腸内細菌、皮膚細菌にさらされます。

これらの細菌が赤ちゃんの腸内に取り込まれるので、赤ちゃんが初めて出す便には様々な細菌が存在します。

ただし、それらの細菌の多くは一時的なものです。

細菌は種類ごとに生息条件があり、その条件にあった体の部位以外には定着することはできないからです。

そのため、最初の数日を過ぎると、特定の嫌気性細菌(腸内のように酸素が存在しない環境を好む細菌)が増殖する一方で他の細菌は減少し、一時的に菌の種類が少なくなります。

具体的には、生後間もない赤ちゃんの腸内では、一般的にスタフィロコッカス属(Staphylococcus属)やラクトバシラス属(Lactobacillus属)などの好気性細菌(酸素がある環境を好む細菌)が多くなります。

しかし、これらも先に述べた一時的な細菌です。

新生児の腸内に定着できるのは、主にお母さん由来のビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)やバクテロイデス属(Bacteroides属)などの嫌気性の腸内細菌です。

これらの腸内細菌は母乳に含まれる糖類を代謝して酢酸などを産生し、有害菌の増殖抑制などに寄与します3)4)。

時間の経過とともに、これらの菌は赤ちゃんの腸内で次第に優勢となり、腸内細菌叢の構成は安定していきます。

このように母から子に腸内細菌が受け継がれることは、腸内細菌の「母子伝播」と呼ばれています5)。


帝王切開と赤ちゃんの腸内細菌叢

帝王切開の場合、赤ちゃんはお母さんの腸内細菌と接触する機会がなくなり、腸内細菌の母子伝播が起こりません。

これは、帝王切開で産まれた赤ちゃんの腸内細菌叢においてビフィドバクテリウム属の存在量が相対的にみて低く、バクテロイデス属がほとんどみられない点に現れているといえるでしょう。

この特徴は、いくつかの大規模コホート研究(600-1,000人の赤ちゃんを対象)を含め、赤ちゃんの腸内細菌叢に対する帝王切開の影響を調査した研究の多くで観察されています1)。

一般的に、帝王切開で産まれた赤ちゃんの初期の腸内細菌叢は皮膚の細菌叢と類似しています。

実際に、帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内細菌叢からは、スタフィロコッカス属やプロピオニバクテリウム属(Propionibacterium属)などの細菌が多く検出されるのです。

また、クロストリジウム属(Clostridium属)やエンテロコッカス属(Enterococcus属)などに属する病原性細菌の存在量が多い場合があります。

これらは院内に一般的に存在する細菌でもあり、院内環境から赤ちゃんの腸内に取り込まれると考えられています6)。

帝王切開の中には破水後に帝王切開するケースもあるでしょう。この場合は細菌との接触という観点からは、選択的帝王切開よりも経膣分娩に近いという仮説もあるようです。

しかし、この仮説はあまり支持されていません。

お母さんと赤ちゃんが陣痛過程にさらされても、腸内細菌の母子伝播はほぼ起こらないと考えられています1)。


出産時の抗生物質の使用が赤ちゃんの腸内細菌叢形成に与える影響

帝王切開においては、お母さんへの抗生物質の投与は分娩になくてはならないものです。

一般的に、成人の抗生物質の使用は腸内細菌叢に影響があることが知られていますが、帝王切開で生まれた赤ちゃんにみられる腸内細菌叢の特徴は、抗生物質による影響ではないと考えられています。

2019年に、帝王切開で出産するお母さんにおいて皮膚切開前もしくは臍帯切断直後に投与した抗生物質の影響を比較した研究が報告されました。

この研究では、抗生物質投与のタイミングによる赤ちゃんの腸内細菌叢の構成への影響は認められませんでした7)。

このことから、帝王切開で産まれた赤ちゃんにみられる腸内細菌叢の特徴は、抗生物質の使用によるものではなく、産道に存在する細菌と接触していないことが原因であるとされています。

一方、経腟分娩における抗生物質の使用は赤ちゃんの腸内細菌叢形成に影響があるようです。

経腟分娩であっても、分娩中に抗生物質が使用された場合は、腸内細菌の母子伝播が遮断される可能性があります。

特にビフィドバクテリウム属の伝播が強い影響を受けることが報告されています1)。


帝王切開の影響はいつまでつづく?

ここまで、赤ちゃんの腸内細菌は出産方法の影響を受けることをご紹介してきました。

では、帝王切開で産まれた赤ちゃんに特徴的な腸内細菌叢はいつまで続くのでしょうか?

赤ちゃんの腸内細菌叢を整える方法があるのかも気になるところです。

これらの疑問については、次回ご紹介する本コラムの後編にて詳しくご説明いたしましょう。


参考文献

1)Korpela, K. Impact of Delivery Mode on Infant Gut Microbiota. Ann. Nutr. Metab. 77, 11–19 (2021).
2)Milani, C. et al. The First Microbial Colonizers of the Human Gut: Composition, Activities, and Health Implications of the Infant Gut Microbiota. Microbiol. Mol. Biol. Rev. 81, 10.1128/mmbr.00036-17 (2017).
3)Fukuda, S. et al. Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate. Nature 469, 543–547 (2011).
4)Marcobal, A. & Sonnenburg, J. L. Human milk oligosaccharide consumption by intestinal microbiota. Clin. Microbiol. Infect. 18, 12–15 (2012).
5)牧野 博 et al. 新生児・乳児期の腸内細菌叢とその形成因子. 腸内細菌学雑誌 33, 15–25 (2018).
6)Shao, Y. et al. Stunted microbiota and opportunistic pathogen colonization in caesarean-section birth. Nature 574, 117–121 (2019).
7)Kamal, S. S. et al. Impact of Early Exposure to Cefuroxime on the Composition of the Gut Microbiota in Infants Following Cesarean Delivery. J. Pediatr. 210, 99-105.e2 (2019).



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