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赤ちゃんには母乳からもビフィズス菌が移行する!? - 母子の腸内細菌叢④授乳【前編】

菌と健康

2024.03.06

本コラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」の一環として、妊娠・出産・授乳に至るまでの、母子の腸内細菌叢(腸内フローラ)についてご紹介します。

シリーズ4回目にあたる今回のコラムでは、授乳に焦点を当て、授乳と赤ちゃんの腸内細菌叢の関連性について解説します。

新生児の腸内細菌叢(腸内フローラ)の形成は、胎児期のお母さんの腸内細菌叢、分娩方法、出生後の環境に影響されます1)。

そして、生後の数年間で腸内細菌叢が形成されていきますが、乳児期の腸内細菌叢がその後の健康にも影響するといわれています。

乳児期の環境要因の中でも、特に大きな影響を与えるといわれているのが授乳です。

本コラムでは、母乳が乳児の腸内細菌叢に及ぼす影響について、母乳中の細菌や成分などにも触れつつご紹介します。


母乳はビフィズス菌の供給源

意外かもしれませんが、母乳中には、1mLあたり少なくても100個、多ければ10,000個ほどの細菌が含まれています。

授乳によって、これらの母乳中の細菌が赤ちゃんの腸内細菌として定着する可能性があるといわれています2)。

具体的には、以下が母乳により赤ちゃんの腸管に伝播する細菌です2)。
・ラクトバシラス属(Lactobacillus属)
・スタフィロコッカス属(Staphylococcus属)
・エンテロコッカス属(Enterococcus属)
・ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属:一般的にビフィズス菌として知られています)

これらの中でも、最初に赤ちゃんの腸内に定着する細菌はスタフィロコッカス属やエンテロコッカス属、ラクトバシラス属などの好気性細菌(酸素がある環境で生育可能な細菌)です。

その後、ビフィドバクテリウム属など嫌気性細菌(酸素が存在しない環境を好む細菌)が増えていきます2)。


母乳で育った赤ちゃんの腸内細菌叢の特徴

母乳のみで育てられた赤ちゃん(母乳栄養児)の腸内ではビフィズス菌が多く存在し、乳児の糞便から検出される細菌全体の50~90%をビフィズス菌が占めます3)。

特徴的なことは、赤ちゃんの体内に存在するビフィズス菌の多くは、成人の腸管から見つかるものとは菌種が異なる点です。

具体的に、成人からは以下の種類のビフィズス菌が検出されます。
●ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B. adolescentis
●ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム(B. pseudocatenulatum
●ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum

成人に対して、赤ちゃんでは以下が検出されます。
ロンガム以外は成人のものと異なることがわかりますね。
●ビフィドバクテリウム・ブレーべ(B. breve
●ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis
●ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum
●ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum

母乳栄養児で、このようなビフィズス菌が多い腸内細菌叢が形成される理由については、以下で詳しく説明いたします。


赤ちゃん特有の腸内細菌叢の形成は母乳中の生理活性因子が理由?

母乳には栄養素以外にもさまざまな生理活性因子が含まれています。

生理活性因子によって、乳児期の腸内でビフィズス菌が多くなると考えられているのです4)。

〈ヒトミルクオリゴ糖〉
ビフィズス菌が多い赤ちゃんの腸内細菌叢形成に、最も重要な因子といわれているのが母乳中に多く含まれるヒトミルクオリゴ糖※aです。

ヒトミルクオリゴ糖は小腸で消化されずに大腸まで届き、赤ちゃんのみが持つビフィズス菌の特定の菌種(乳児型ビフィズス菌)により分解されます5)。

一方で、ビフィズス菌以外の細菌や成人型ビフィズス菌は、ヒトミルクオリゴ糖の分解能力が低くいことがわかっています。

乳児型ビフィズス菌は成人型ビフィズス菌などよりも早くヒトミルクオリゴ糖を分解できるため、赤ちゃんの腸内細菌叢では乳児型ビフィズス菌が早く増殖し、他の細菌よりも優勢となるのです6)。

また、ヒトミルクオリゴ糖には、病原体が腸粘膜に付着するのを阻害する機能や、抗菌作用といった機能もあります6)。


〈ラクトフェリン〉
母乳に含まれる生理活性因子の1つであるラクトフェリンも、乳児型ビフィズス菌の増殖に関与しています7)。

ラクトフェリンには感染防御の機能があるため、細菌やウイルスから身を守ることや、免疫調節に良い効果が期待できます8)。

ラクトフェリンもヒトミルクオリゴ糖と同様に、赤ちゃんが摂取しておきたい成分の一つです。

以上のように、母乳で育った赤ちゃん(母乳栄養児)では、ビフィズス菌が優勢な腸内細菌叢が形成されます。

この乳児型ビフィズス菌優勢の腸内細菌叢は離乳期まで維持されます。

離乳がはじまり母乳以外の食事を摂取することで、乳児型から成人型のビフィズス菌に変わり、徐々にバクテロイデス門(Bacteroidetes門)、ユーバクテリウム属(Eubacterium属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)などの嫌気性細菌が優勢となり、成人の腸内細菌叢に近づいていきます9)。


母乳は出産方法の違いによる腸内細菌叢の差を小さくする

前回のコラム「母子の腸内細菌叢③出産」において、帝王切開で産まれた赤ちゃんには腸内細菌の母子伝播が起こらないこと、また、経腟分娩で産まれた赤ちゃんとは異なる腸内細菌叢になることをご紹介しました。

母乳は、上述の効果により、出産方法の違いから生じる腸内細菌叢の差異を小さくすることができるといわれています10)。


人工乳ではなく母乳でないといけない?

母乳による赤ちゃんの腸内細菌叢への影響を紹介しました。

母乳によってお母さんから赤ちゃんにビフィズス菌や乳酸菌などが移行し、母乳の成分によって赤ちゃんの腸内細菌叢が形成されます。

ここまで読むと「人工乳じゃダメなのかな…?」と不安になる方もおられるかと思いますが、その疑問については後編でご説明させていただきます。

また、ご自身やご家族のビフィズス菌や乳酸菌の割合が気になる方は、当社の「健腸ナビ」で知ることができます。是非ご活用ください。


用語説明
※a:ヒトミルクオリゴ糖(HMOs):ヒトの母乳に含まれている約250種類もの様々なオリゴ糖の総称。乳糖、脂肪に次いで母乳中に3番目に多く含まれる成分。乳糖は小腸で消化吸収されて赤ちゃんのエネルギー源となるものの、HMOsは小腸で消化されず、大腸内のBifidobacterium属のエサとなる。他の細菌や病原性細菌はHMOsの代謝能力が低いため、Bifidobacterium属などの有益な細菌の増殖がさらに促進される。また、Bifidobacterium属によるHMOs代謝により有機酸が産生され腸内が酸性環境となるため病原性細菌の増殖が抑制される。


参考文献/参考資料
1)Milani, C. et al. Microbiol Mol Biol Rev 81, e00036-17 (2017).
2)Murphy, K. et al. Sci Rep 7, 40597 (2017).
3)久保のぞみ et al. 日本周産期・新生児医学会雑誌 vol. 27 243–250 (2021).
4)van den Elsen, L. W. J. et al. Front Pediatr 7, 47 (2019).
5)片山高嶺. 応用糖質科学 vol. 4 287–294 (2014).
6)Walsh, C. et al. J Funct Foods 72, 104074 (2020).
7)Kim, W.-S. et al. Biometals 17, 279–283 (2004).
8)https://lactoferrin.jp/about.html.
9)安藤朗. 日本内科学会雑誌 vol. 104 29–34 (2015).
10)Akagawa, S. et al. Ann Nutr Metab 74, 132–139 (2019).



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