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男性不妊の原因にも腸内フローラが関係していた!―不妊症と腸内フローラ〈後編〉―

菌と健康

2024.08.14

一言で不妊といっても、その原因は多岐にわたります。

大きく分けると男性に原因がある場合と女性に原因がある場合があり、約半分は男性にあるといわれています1)。

男性の不妊の原因は、主に精子に関する問題や勃起不全(ED)などです。

近年の研究では、腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常(ディスバイオシス)が不妊にも関連することが明らかとなってきました。

今回のコラムでは、男性不妊と腸内細菌叢の関連に着目して説明していきます。

本コラムのシリーズ前編中編では、女性不妊と腸内細菌叢の関連について説明しております。

妊活中の方は、是非パートナーの方とともに前編中編・後編を通してご覧いただければと思います。


腸内フローラの乱れが炎症を引き起こし精子に悪影響

マウスを用いた研究によると、腸内細菌叢の乱れの影響により精巣上体に局所的な炎症が起こり、その結果、精子形成と精子運動性が大きく低下したことが報告されています2)。

腸内細菌叢の乱れは、腸のバリア機能を低下させ、細菌由来の炎症に関係する物質を腸から全身に漏出させることにつながります。

男性不妊においては、このような漏出して全身を巡る炎症関連物質が、精巣や精巣上体に到達することにより炎症が起こり、その結果として精子形成や精子運動性の低下をまねく可能性があるようです3)。


腸内フローラの乱れによっても起こるインスリン抵抗性が性ホルモンに影響

少し専門的ですが、インスリン抵抗性※aという言葉をご存知でしょうか。

インスリンは一般的には血糖値を下げる効果があることで知られているホルモンです。

このインスリンが体内で効きにくくなることをインスリン抵抗性といいます。

インスリン抵抗性は腸内細菌叢の異常に関連して起こる可能性があり、また、このインスリン抵抗性はさまざまな性ホルモンの分泌に影響を与えます3),4)。

つまり、腸内細菌叢の異常は、インスリン抵抗性を介して男性ホルモンなどに影響し、精子形成に悪影響を及ぼす可能性があるといえるでしょう。


腸内細菌叢とED

男性不妊の主な原因の一つである勃起不全(ED)にも、腸内細菌叢の異常が関連している可能性があります。

ある研究において、EDを起こしている糖尿病モデルラットでは、腸内細菌由来の代謝物質であるTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)や、細菌に由来するリポ多糖(LPS)などのような、炎症性物質の血清濃度が高いことが報告されました3),5)。

中でも、TMAOは血管の炎症を促進することが知られている物質です。

つまり、TMAO濃度が上昇することにより、血管の炎症が起き、それが陰茎の海綿体内皮細胞や平滑筋細胞の損傷につながり、最終的にEDの発症と進行につながる可能性があるのではないかと考えられています。

ただし、この研究ではEDを発症しているのが糖尿病ラットであることから、糖尿病の影響を除外して、腸内細菌叢とEDの関連について研究を進める必要がありそうです。


プレバイオティクスやプロバイオティクスによる男性不妊症の治療の可能性

ここまでの説明のように、腸内細菌叢と精子・EDなど男性不妊症の原因との関連が明らかになったことで、近年では腸内細菌叢に着目した男性不妊症の治療の可能性についても研究が行なわれています。

例えば、精子の運動率が低い状態である精子無力症の男性が以下のプロバイオティクス※bを摂取したところ、精子の運動性などが改善されたと報告されています6)。
・ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)CECT8361株
・ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)CECT7347株

また、ある研究では、化学物質の影響で生殖能力が低下したマウスにプレバイオティクス※cとしてアルギン酸オリゴ糖を摂取させた結果、腸内細菌叢が改善し、精子形成が回復したと報告されました7)。

これらの研究結果は、腸内細菌叢の異常が精子の異常に関連しており、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどによる腸内細菌叢の改善により、精子異常(不妊症)を治療できる可能性があることを示唆しています。

ただし、現時点ではまだまだ研究段階であるため、実用化にはさらに多くの研究が必要とされています。


不妊症の予防のためにも腸内細菌叢を整えておきましょう

男性と女性で不妊症の原因は違います。

しかし腸内細菌叢の異常は、男女で共通して不妊症の原因に影響する可能性があります。

そのため予防の基本として挙げられるのは、日頃から腸内細菌叢を整えておくことです。

日常生活の中では、特に食事が腸内細菌叢に大きく影響します。

例えば、西洋食などの高動物性タンパク質や高脂肪、低食物繊維の食事ばかりが続くと、腸内細菌叢の乱れにつながる可能性があります。

一方で、さまざまな食材が含まれている食事や栄養バランスの良い食事をとると、腸内環境を整えることや、良い状態を維持することにつながるでしょう。

また、食事以外では、十分な睡眠や適度な運動を意識し、ストレスをためないことなどが腸内細菌叢にはプラスです。

パートナーの方と一緒に取り組めば、1人で取り組んだ時よりも一層妊活の効果が期待できます。

2人でなら、より楽しく腸活に取り組むこともできるでしょう。

腸内細菌叢の状態は明確に目に見えるものではないため、ご自身の状態が気になる方は一度調べてみるのがおすすめです。

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腸は第二の脳とも呼ばれるほど、身体だけでなく精神面の健康にも影響が大きい部位です。

妊活だけでなく、全体的な健康にも通じるため、心身ともに健やかに過ごすために腸活に取り組みましょう。


用語解説
※a インスリン抵抗性
膵臓から分泌されたインスリンに対して感受性を示さなくなる病態のこと8)。インスリン抵抗性は、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、テストステロンなどのさまざまな性ホルモンの分泌に影響を与えることが報告されている3),4)。

※b プロバイオティクス
生菌として摂取し、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを改善し、健康に有利に働く微生物のこと9)。

※c プレバイオティクス
腸内の有用菌の増殖ならびに活性を促進することで、大腸の腸内フローラバランスを改善・維持し、宿主の健康に寄与する食品成分のこと9)。


参考文献
1)今中聖悟. 産婦人科の進歩 72, 302–302 (2020).
2)Ding, N. et al. Gut 69, 1608–1619 (2020).
3)Wang, Y. & Xie, Z. Andrology 10, 441–450 (2022).
4)Ashonibare, V. J. et al. Front. Immunol. 15, 1346035 (2024).
5)Li, H. et al. J. Huazhong Univ. Sci. Technolog. Med. Sci. 37, 523–530 (2017).
6)Valcarce, D. G. et al. Benef. Microbes 8, 193–206 (2017).
7)Zhao, Y. et al. Theranostics 10, 3308–3324 (2020).
8)栗原悠介. ファルマシア 58, 174–174 (2022).
9)萩達朗. 日本食品科学工学会誌 70, 309–309 (2023).



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