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過敏性腸症候群(IBS)と腸内フローラの関係|ヨーグルトに注意が必要な人も?

菌と健康

2024.09.10

「緊張するとお腹がギュルギュル」

「ストレスがかかる場面でお腹の調子が悪くなる」

よくある出来事と思う方もいるかと思いますが、このような症状は過敏性腸症候群かもしれず、本人にとっては非常につらい症状です。

過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome:IBS)は、腸の働きに異常が生じて、腹痛や下痢、便秘などの症状が慢性的に続くものです。

ストレスとの強い関連があると考えられていましたが、最近では、腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常(ディスバイオシス)も関わっていることが分かってきました。

今回のコラムでは、IBSと腸内細菌叢の関係についてご紹介いたします。


過敏性腸症候群(IBS)と腸内フローラは関連している

IBSの患者と健常者の腸内細菌叢には違いがあり1)、IBS患者のほうがラクトバチルス属(Lactobacillus属)やベイロネラ属(Veillonella属)という細菌が多いことが報告されています。

ラクトバチルス属やベイロネラ属が増えると酢酸やプロピオン酸などが体内で作られやすくなり2)、これらの濃度が高すぎることが原因でIBSによる腹痛などの症状が起こると考えられています。

また、腸内細菌叢に異常が起こると腸管の粘膜に隙間が生じやすくなります。

その結果、異物が体内に入りやすくなって腸に炎症が起こりやすくなることなどからもIBSと腸内細菌叢の関連が想像できるでしょう3)。

●脳腸相関とは

少し専門的ですが、「脳腸相関」という言葉を耳にしたことがある方がいるかもしれません。

近年の研究では、脳と腸はお互いに影響し合うことがわかっています4)。

IBSにはストレスにより症状が悪化する特徴があります。

脳が感じたストレスが腸に伝わって腹痛が起こると、腹痛の発生により感じるストレスがまた悪化を呼ぶと考えられています4)。

また、セロトニンという神経伝達物質も脳腸相関に関わる重要な物質の一つです。

脳がストレスを受けると、腸に存在するセロトニンの作用で腸の運動が活発になり、IBSによる下痢が起こると考えられています。

うつ病などでは脳内のセロトニンが不足することによって問題が起こるとされていますが、IBSでは腸内のセロトニンが過剰に作用することで症状が現れると認識しておきましょう。

実際にIBS治療のためのお薬として、腸内のセロトニンの作用を抑制するものが処方されることがあります。


過敏性腸症候群(IBS)はストレスなどで起こる腹痛や便通異常

IBSと腸内細菌叢、脳腸相関についてご説明しましたが、ここでは改めてIBSとはどのような病気なのかをご説明します。

IBSには4つのタイプがあることや、症状、診断方法、治療法など、IBSを知る上で基本的なことについて解説します。

●過敏性腸症候群(IBS)の分類は4つ!男性は下痢で女性は便秘が多い

IBSは、ストレスなどが原因で腹痛や便通異常が慢性的に続く病気です。

便の特徴から「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つのタイプにIBSは分類されており、男性では下痢が多く女性では便秘が多いといわれています。

●過敏性腸症候群(IBS)の症状

IBSの症状は主に腹痛、便秘や下痢などの便通異常、おならが頻繁に出る、といったことが挙げられます。

IBSの方は健常者に比べて腹痛を感じやすくなっており1)、うつ病や片頭痛持ちの方が多いと報告されています5),6)。

●過敏性腸症候群(IBS)の原因

IBSの原因として挙げられるのは、ストレスや不規則な生活習慣などが一般的です。

そして上述の通り、腸内細菌叢の異常による腸やその他の全身の炎症、そして、脳腸相関により腸と脳が影響し合うこともIBSの原因として考えられています7),8)。

また、サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌O-157、ウイルスによる感染性腸炎にかかった人のうち約10%がIBS(この場合は“感染性腸炎後IBS”とよばれます)を発症するといわれています。

●過敏性腸症候群(IBS)の診断

IBSは、罹患者の症状を国際的な診断基準である「Rome IV」に照らし合わせて診断がなされます。(Rome Ⅳについては後述します)

下腹部の不快感や痛み、排便頻度や形状の変化などの症状が3ヶ月以上続いているかどうか、という視点でIBSか否かが診断されます。

●過敏性腸症候群(IBS)の治療法

IBSの治療には、腹痛や下痢、便秘などの症状に対する薬物療法、ストレスに対する薬物療法や心理療法、さらに、腸内細菌叢に対する治療など複数の方法が挙げられます。

ここでは、腸内細菌叢に対する治療として、プロバイオティクスの摂取、低FODMAP食の食事療法、糞便移植についてご紹介いたします。

・プロバイオティクス

IBS治療としてのプロバイオティクスの摂取については様々な条件で多くの研究が行われています。
全ての研究でIBS改善の効果がみられている訳ではありませんが、総合的には、プロバイオティクスはIBS症状の改善に有効であると結論づけられています9),10)。
プロバイオティクスがIBSに有効な理由としては、摂取した細菌そのものが病原性細菌への抗菌性を示すこと、腸管粘膜のバリア機能の維持に働くこと、抗炎症性サイトカイン産生を正常化すること、などが考えられています12)。

・低FODMAP食

FODMAPとは、4種類の発酵性糖質(オリゴ糖・二糖類・単糖類・糖アルコール)の英字の頭文字をとった言葉です。
これらは小腸で消化吸収されにくく、摂りすぎると小腸中の糖質の濃度が高くなります。
すると、糖質を薄めるために体が小腸に水分を集めようとして、腸の蠕動運動が活発となり腹痛や下痢を引き起こしやすくなってしまうのです。
また、小腸で吸収されなかったFODMAPが大腸に届いて腸内細菌のエサとなり、過剰な発酵が進むと過剰なガス(おなら)の発生や便秘を引き起こすことがあります。
低FODMAP食とはこれらの発酵性糖質を減らす食事のことで、実際に低FODMAP食によってIBS症状が改善されたことが多くの研究で報告されています14)。
例えば、腸活で代表的なヨーグルトは乳糖を含む高FODMAP食品です。
腸に良いとされている乳酸菌を含むものであっても、摂り方や摂りすぎには注意が必要な場合があります。
ただし、どの糖質が合わないかは体質などによって異なり、全ての糖質が症状を悪化させる訳ではありません。
また、低FODMAP食は栄養不足のリスクや有益な細菌を減らす可能性も指摘されているため、低FODMAP食事療法を実践する場合は、医療機関を受診して正しい指導のもとで行うことをおすすめします。

・糞便移植

糞便移植は、プロバイオティクスよりも投与できる細菌数や種類が桁違いに多いことから、腸内細菌叢の異常を改善する方法として期待されており、実際にIBS症状の改善がみられたとの報告もあります。
ただし、現時点では、IBSに対する糞便移植では一定の治療効果が得られていないこと、糞便移植の方法やドナー便の安全性などの課題も多く、今後のさらなる研究の進展が期待されている状況です15)。

このようにいくつかの治療方法がありますが、まずは規則正しい生活を送り、自律神経を整えておくことも大切です。

適度な運動や十分な睡眠、発酵性糖質以外にもIBSを悪化させる可能性がある脂質・香辛料・カフェイン・アルコール・タバコの摂取を控えることなども、普段の生活で気をつけていくべきことといえます。

●気になる方はセルフチェックをしてみましょう

「もしかしたらIBSかも…?」と思う方は、以下の項目からセルフチェックをしてみましょう。

以下がIBS診断基準の「Rome IV」です。
(1)最近3か月の間に、週に1日以上にわたってお腹の痛みが繰り返し起こる
(2)以下の項目に2つ以上当てはまる
①排便によって症状がやわらぐ
②症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
③症状とともに便の形状が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)
※期間としては6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記基準をみたすこと。

(1)と(2)が該当するようならIBSの疑いがあるため16)、医療機関の受診や、先に紹介したような生活習慣の見直しをおすすめします。

IBSと腸内細菌叢の異常には大きな関連性があるため、腸内細菌叢を検査してご自身の状態をチェックすることもおすすめです。


過敏性腸症候群(IBS)と症状が似ている疾病

IBSは下腹部の不快感や痛み、排便の異常などを伴うため、同じような症状を示す疾病と間違われることがあります。

ここではそのような疾病についてご紹介します。

●細菌の異常増殖で起こる小腸内細菌異常増殖症(SIBO)

小腸内細菌異常増殖症候群はSmall Intestinal Bacterial Overgrowthの頭文字をとってSIBO(シーボ)と呼ばれている疾病です。

SIBOの病態は小腸内に細菌が異常に増殖することです。

異常増殖した菌が食べ物を小腸内で発酵させることで、大量のガスが発生し、腹部膨満、吸収不良、下痢、便秘などの症状を引き起こします。

IBS患者ではSIBOを合併していることが多いということも報告されています17)。

SIBOでは便通異常や症状が腹部に現れることなどIBSと似た部分があります。

●上部消化管の症状を主とする機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシア(FD)は、慢性的な胃もたれ、胃の痛み、食欲不振、吐き気などの症状が現れる疾病です。

FDの原因は明らかになっていませんが、胃の運動機能の異常、胃の知覚過敏、ピロリ菌感染、ストレスや生活習慣の乱れなどがリスク要因として挙げられています。

FDはIBSやSIBOと同様に腹部に症状が現れますが、FDでは胃痛・胃もたれ・げっぷなどの上部消化管症状、IBSやSIBOは腹痛・便秘・下痢など下部消化管症状を示すというように、部位に違いがあります。


過敏性腸症候群(IBS)が心配な方は腸内細菌叢を調べてみるのもおすすめ

ストレスが主な原因と思われてきた過敏性腸症候群(IBS)ですが、最近では、腸内細菌叢の異常が重要な要因となっていることがわかってきました。

IBSの疑いがある方は、まずはストレスをためないように運動する、規則正しい生活を意識する、摂取する食品に気をかけてみるとよいでしょう。

食生活ではプロバイオティクスが推奨されますが、腸活に良いとされている乳酸菌を高FODMAP食品であるヨーグルトで摂取すると症状が悪化して逆効果となる場合もあります。

普段から口にしている食品のうち、どのような食品がFODMAPに該当するのか意識してみることも良いでしょう。

また、当社の腸内細菌叢の検査・分析サービス「健腸ナビ」では、IBSやうつ病、片頭痛を含む30以上の疾病のリスクを分析できるだけでなく、腸内細菌叢のバランスを評価する機能なども備えています。

IBSの症状だけでなく、腸内環境にも心当たりがある方は、このようなサービスの活用もご検討されてはいかがでしょうか。


参考文献

  1. Enck, P. et al. Irritable bowel syndrome. Nat Rev Dis Primers 2, 1–24 (2016).
    2)Tana, C. et al. Altered profiles of intestinal microbiota and organic acids may be the origin of symptoms in irritable bowel syndrome. Neurogastroenterology & Motility 22, 512-e115 (2010).
    3)Vivinus-Nébot, M. et al. Functional bowel symptoms in quiescent inflammatory bowel diseases: role of epithelial barrier disruption and low-grade inflammation. Gut 63, 744–752 (2014).
    4)Shaikh, S. D., Sun, N., Canakis, A., Park, W. Y. & Weber, H. C. Irritable Bowel Syndrome and the Gut Microbiome: A Comprehensive Review. Journal of Clinical Medicine 12, 2558 (2023).
    5)Zamani, M., Alizadeh-Tabari, S. & Zamani, V. Systematic review with meta-analysis: the prevalence of anxiety and depression in patients with irritable bowel syndrome. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 50, 132–143 (2019).
    6)Kim, J., Lee, S. & Rhew, K. Association between Gastrointestinal Diseases and Migraine. Int J Environ Res Public Health 19, 4018 (2022).
    7)Simpson, C. A., Mu, A., Haslam, N., Schwartz, O. S. & Simmons, J. G. Feeling down? A systematic review of the gut microbiota in anxiety/depression and irritable bowel syndrome. Journal of Affective Disorders 266, 429–446 (2020).
    8)Arzani, M. et al. Gut-brain Axis and migraine headache: a comprehensive review. J Headache Pain 21, 15 (2020).
    9)Hungin, A. P. S. et al. Systematic review: probiotics in the management of lower gastrointestinal symptoms – an updated evidence‐based international consensus. Aliment Pharmacol Ther 47, 1054–1070 (2018).
    10)Ford, A. C., Harris, L. A., Lacy, B. E., Quigley, E. M. M. & Moayyedi, P. Systematic review with meta-analysis: the efficacy of prebiotics, probiotics, synbiotics and antibiotics in irritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther 48, 1044–1060 (2018).
    12)正岡建洋 & 金井隆典. 過敏性腸症候群の診療ー現状と今後の展望ー. 日本消化器病学会雑誌 vol. 116 570–575 (2019).
    13)Ishaque, S. M., Khosruzzaman, S. M., Ahmed, D. S. & Sah, M. P. A randomized placebo-controlled clinical trial of a multi-strain probiotic formulation (Bio-Kult®) in the management of diarrhea-predominant irritable bowel syndrome. BMC Gastroenterol 18, 71 (2018).
    14)van Lanen, A.-S., de Bree, A. & Greyling, A. Efficacy of a low-FODMAP diet in adult irritable bowel syndrome: a systematic review and meta-analysis. Eur J Nutr 60, 3505–3522 (2021).
    15)Myneedu, K., Deoker, A., Schmulson, M. J. & Bashashati, M. Fecal microbiota transplantation in irritable bowel syndrome: A systematic review and meta-analysis. United European Gastroenterol J 7, 1033–1041 (2019).
    16)過敏性腸症候群 (IBS) ガイド2023. 過敏性腸症候群 (IBS) ガイド2023. 日本消化器病学会.
    17)Takakura, W. & Pimentel, M. Small Intestinal Bacterial Overgrowth and Irritable Bowel Syndrome – An Update. Front. Psychiatry 11, (2020).



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