

酪酸菌はこう増やす!ただし増えすぎると危険なことも?!
菌と健康
酪酸を産生する「酪酸菌」。
ここ数年、その健康効果が着目されてメディアでも話題になっており、耳にしたことがある方も多いことでしょう。
そもそも酪酸菌が作る酪酸にはどのような良いことがあるの?
また、そんな酪酸菌を増やす方法とは?
さらに、酪酸菌にデメリットや危険性はないのか?
……など、色々な疑問がわいている方も多いのでは。
今回のコラムでは、このような酪酸菌について、少し深堀りした情報をご案内いたします。
酪酸の効果とは?
酪酸菌(酪酸産生菌)とは、大腸まで届いた食物繊維などを分解して、「酪酸」を産生する菌を指します。
このようにして作られた酪酸には、次のような様々な働きがあることが知られています。
・腸のバリア機能の維持:有害な菌や物質が体内に侵入するのを防ぐ。
・腸内を弱酸性化:有害な菌の増殖を抑え、ビフィズス菌や乳酸菌などを増えやすくする。また、カルシウムなどのミネラルの吸収率を高める。
・大腸のエネルギー源:蠕動運動を促し、排便しやすくする。
・免疫を調整:炎症を制御、恒常性を調整、エネルギー代謝を促す1),2)。
酪酸菌や酪酸の働きについては、以下のコラムでも詳しくご紹介しています。
コラム:「実は健康維持に不可欠! 腸内細菌がつくる「酪酸」~酪酸菌とは?~」
酪酸菌と健康の関係
このような酪酸を作り出す酪酸菌ですが、その酪酸菌と健康との関係については様々な研究がされており、以下のようなことがわかっています。
・大腸がんや炎症性腸疾患、2型糖尿病の人では、大腸内の酪酸菌の割合や酪酸の濃度が健常な人より低い3)–7)。
・100歳以上の高齢者が多い長寿地域の健康な高齢者は、都市部の高齢者よりも酪酸菌の割合が高い8)。
これらのことから、どうやら大腸内の酪酸菌を増やすことが大腸がんなどの病気を予防したり、長寿に効果的であったりするのではないかと考えられて、近年着目されているのです。
酪酸菌の増やし方!4つの方法をご紹介
酪酸菌を増やすより、酪酸菌が作り出す酪酸を直接摂ればいいのでは?と考える方も多いでしょう。
しかし、実は口から摂取した酪酸は、胃や小腸で吸収されてしまい大腸にはほとんど届かないのです。
そのため、大腸内の酪酸を維持するには、大腸で酪酸を作り出してくれる酪酸菌を増やすことが大切。
ここでは酪酸菌を増やす主な方法を4つご紹介しましょう。
1.酪酸菌を増やしてくれる食品を摂る
酪酸菌を増やすには、酪酸のエサとなる食品を摂るのが良いでしょう。
食物繊維やオリゴ糖、レジスタントスターチなどの難消化性デンプンを含む食品は、酪酸菌のエサとなるので、酪酸菌を効果的に増やすことができます9)–11)。
2.酪酸菌そのものをサプリなどで摂る
酪酸菌を含む食品としてはぬか漬けや臭豆腐が知られています。
ただ、このような食品を毎日食べるのは難しいので、酪酸菌を含むサプリメントや整腸剤で手軽に補うのがよいでしょう。
3.ビタミンDを摂取する
血中の活性型ビタミンD濃度が高い人は、その濃度が低い人と比べて、酪酸菌が多いことが報告されています12)。
ビタミンDを食事やサプリメントから積極的に摂ることで、腸内の酪酸菌を維持できる可能性があります。
4.適度に運動する
適度な運動や規則正しい生活によって自律神経が整うと、酪酸菌が増えるのに適した腸内環境が整います。
さらに、自律神経が整うと、腸の蠕動運動もスムーズとなって排便が促されるので、腸内環境の改善も期待できます。
逆に、蠕動運動が低下すると、下痢や便秘などを起こしやすくなってしまうので、適度に運動することを心がけましょう。
酪酸菌が多すぎると危険?酪酸の副作用は?
ここまで酪酸菌が健康に与える良い面をお伝えしてきましたが、ここでは酪酸菌の悪い面や危険性についてもお伝えしておきます。
●酪酸菌には悪い菌もいる!
実は、酪酸菌の中には健康に悪い影響を与えるものもいます。
例えば、酪酸菌のうち、口腔内で増殖し、歯周病菌として知られるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)。
この菌が上部消化管や大腸へ到達すると、食道がんや大腸がんの発症や促進に関連する可能性が報告されています13),14)。
また、口腔内に常在する日和見菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)は、歯周病など口腔内の病気だけでなく、虫垂炎、心膜炎、脳膿瘍など様々な感染症に関連すると報告されています15)。
フソバクテリウム・ヌクレアタムも大腸内で酪酸を産生する酪酸菌ですが、大腸がんの発症や進行に関与しているとのが報告あります16),17)。
そのため、これらの菌によって引き起こされるがんや感染症のリスクを抑えるためには、口腔内環境にも気を付ける必要があるといえるでしょう。
多くの酪酸菌は基本的には問題がないものですが、上記のように健康に悪い影響を与える酪酸菌もいます。
人によっては悪い酪酸菌の割合が高くなってしまっていることもあるので、自身の腸内フローラ(腸内細菌叢)を検査してその構成を知っておくとよいでしょう。
●腸内の酪酸の濃度が高いと危険?!
前述の通り、酪酸には腸のバリア機能を維持する効果があります。
ただしそれは、腸内の酪酸の濃度が適切な場合に限るようで、酪酸が高濃度になると、逆に腸のバリア機能を破壊してしまう可能性を示す研究があります18)。
その研究は試験管内で行われたものなので実際の生体内で同じ影響があるかは明らかではないものの、腸内で酪酸の濃度が高すぎる状態になることは避けたほうが良いと考えられます。
腸内環境を健やかに保つには腸内細菌のバランスが大切!
健康的な腸内環境のためには、酪酸菌だけが多いのではなく、酪酸菌と他の腸内細菌とがバランスよく保たれていることが大切です。
はじめにお示ししたように、酪酸は腸内を弱酸性にすることで、有害な細菌の増殖を抑え、ビフィズス菌や乳酸菌などのいわゆる善玉菌が増えやすい腸内環境をつくるのに役立っています。
また、ビフィズス菌が作り出す物質を酪酸菌が利用することで、酪酸が作り出されることがわかっています19)。
そのため、間接的に酪酸を増やすことのできるビフィズス菌を摂るために、ビフィズス菌の入ったヨーグルトや食品を摂ることも効果的でしょう。
このように、腸内では様々な腸内細菌が相互に作用していることから、腸内環境を健やかに保つためには、やはり腸内細菌のバランスがとても大切なのです。
腸内フローラのバランスを維持・改善するには、食物繊維が豊富でバランスの良い食事や、プロバイオティクス食品を適度に摂ることが効果的です。
また、サプリメントや整腸剤を利用する場合は、酪酸菌、ビフィズス菌、乳酸菌といった複数の菌が配合されたものを選ぶのも良いでしょう。
最後に
多くの健康効果が示されている酪酸。直接摂取しても効果を得にくいですが、酪酸菌を増やす食事を心掛けたり、酪酸菌を含むサプリメントなどを利用したりすることで、腸内の酪酸の濃度を維持することができます。
ただし、酪酸菌ばかりが多くなって腸内フローラのバランスが崩れたり、酪酸の濃度が高くなり過ぎたりすると、健康に悪影響があることもわかりました。
まずはご自身の腸内に酪酸菌がどのくらいいるのかを調べてみてはいかがでしょうか。
「健腸ナビ」では、酪酸産生菌や乳酸産生菌などの割合がわかるだけではなく、腸内フローラのバランスを知ることもできます。
腸からの健康を目指すために、是非ご活用ください。
参考文献
1)Furusawa, Y. et al. Nature 504, 446–450 (2013).
2)Corrêa-Oliveira, R. et al. Clinical & Translational Immunology 5, e73 (2016).
3)Reis, S. A. dos et al. Journal of Medical Microbiology 68, 1391–1407 (2019).
4)Takaishi, H. et al. International Journal of Medical Microbiology 298, 463–472 (2008).
5)Sokol, H. et al. Inflammatory Bowel Diseases 15, 1183–1189 (2009).
6)Kaźmierczak-Siedlecka, K. et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci 27, 1443–1449 (2023).
7)Qin, J. et al. Nature 490, 55–60 (2012).
8)Naito, Y. et al. J Clin Biochem Nutr 65, 125–131 (2019).
9)Akagawa, S. et al. Ann Nutr Metab 74, 132–139 (2019).
10)Sato, S. et al. Microorganisms 10, 1813 (2022).
11)Xu, J. et al. Food Science and Human Wellness 12, 2344–2354 (2023).
12)Thomas, R. L. et al. Nat Commun 11, 5997 (2020).
13)Peters, B. A. et al. Cancer Res 77, 6777–6787 (2017).
14)Wang, X. et al. Cancer Research 81, 2745–2759 (2021).
15)Chen, Y. et al. Front. Cell. Infect. Microbiol. 12, (2022).
16)Zhou, Z. et al. Front. Oncol. 8, (2018).
17)Yu, T. et al. Cell 170, 548-563.e16 (2017).
18)Peng, L. et al. Pediatr Res 61, 37–41 (2007).
19)Falony, G. et al. Appl Environ Microbiol 72, 7835–7841 (2006).
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