

うつ病は腸内フローラが原因?!薬に依存しないうつ病の治し方とは
菌と健康
近年、うつ病と腸内フローラの関係が注目されています。
人々が日常のストレスや生活環境から受ける影響は、心の健康に深く関わっていますが、その背後にあるメカニズムの一つに、腸内フローラとの関係性があることがわかってきました。
腸は「第二の脳」とも呼ばれ、その健康状態が私たちの感情や思考に大きな影響を与える可能性があります。
このコラムでは、まずは前半でうつ病についての知見をご紹介し、後半では近年明らかとなった腸内フローラとうつ病の関連性についてご紹介します。
腸内フローラが、うつ病の新しい治療法や予防策を見出すカギとなるかもしれません。
うつ病とは?うつ病の基本情報をご紹介
うつ病とは、主に感情や気分に影響を与える精神疾患の一つです。
うつ病の主な症状や定義、うつ病患者の心理状態、うつ病になる原因、そして、日本におけるうつ病の罹患者数の情報をまとめて以下にご紹介します。
●主なうつ病の症状とは?
うつ病の主な症状として、気分の落ち込みや、興味・関心が失われることが挙げられます1)。
また、集中できない、不安な気持ちになる、眠れない、食欲がないなど、様々な症状も知られています。
いったん症状が改善しても再燃・再発する可能性もあり、うつ病は慢性の全身性疾患ともいわれています。
●うつ病の9つの症状と定義
WHOによると、うつ病は以下の9つの症状のうち5つ以上が一定期間示されたものと定義されています2)。
- 興味の喪失
- 睡眠障害
- 食欲変化・体重減少
- 抑うつ気分
- 集中力低下
- 制止・精神運動焦燥
- 自責
- 気力低下
- 自殺念慮
●うつ病の人の心理状態とは?
うつ病の人の心理状態は非常に複雑で、症状や思考はそれぞれの状況によって異なるとされています。
そのような中でも、多くある訴えとしては次のようなものがあります。
・「同じことをぐるぐると何度も考えてしまう」
・「ふとしたことで涙があふれる」
・「自分は役に立たない」
・「これからも良くならない」
・「誰も自分を必要としていない」
このように、虚無感や興味の喪失、疲労感などに苦しんでいることが多いとされています2)。
●うつ病の原因とは?
うつ病の原因の1つとして強い心理的ストレスが挙げられます。
心理的ストレスが脳内で炎症などを引き起こし、うつ病を発症する原因となることがあります3)。
この心理的ストレスの要因は人によって異なります。
近年の新型コロナウィルス感染症によるパンデミックの時期には、その心理的ダメージによって世界的に年代や性別に関わらずうつ病の有病率が増加したそうです2)。
このような社会的な出来事から個人的な問題まで、様々な要因が心理的ストレスにつながります。
その他にも、うつ病の原因には、遺伝的要因、生物的要因(脳の機能変調など)、心理的要因(性格傾向や価値観など)など、複雑で多くの要因が関与すると考えられています4)。
●日本のうつ病の罹患者数はどれくらいなのか?
2017年の厚生労働省患者調査では、日本における躁うつ病を含む気分障害の罹患者数は男性で49.5万人、女性で78.1万人と、全体では120万人をゆうに超えるほど多いことが報告されています2)。
女性の方が男性よりも有病率が高く、特に高齢の女性で増加します。
男性は40歳代がピークとされています。
主なうつ病治療法
次にうつ病の主な治療法についてご紹介します。
うつ病の治療には、症状に応じて、抗うつ薬による薬物療法、電気けいれん刺激、精神療法、また、それらを組み合わせたものが選択されます。
●薬物療法
薬物療法は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬を治療に用いる方法です5)。
抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンの濃度を高めるという性質があり、うつ病の改善に寄与しますが、眠気や体重増加などの副作用を伴います。
また、残念ながら若年者への処方には適していないとされています。
さらに、一部のうつ病患者には効果が期待できないなどの課題もあり、一般的には、抗うつ薬で改善があまりみられない、副作用などで使用できないないといった患者が全体の3割はいるとされています2)。
●電気けいれん刺激
上記のような薬物療法が難しいうつ病患者には、電気けいれん刺激の治療を行うことで症状の改善がみられる場合があることが知られています1),6)。
この治療法では、特殊な機械を用いて前額面に通電します。
これにより、脳に電気刺激が加わり神経が活性化するなどして、うつ病の改善につながります。
ただし、再発率が高いことや、維持療法の難しさなどがネックとされています。
●精神療法
精神療法には、認知行動療法や問題解決技法、力動的精神療法、対人関係療法などがあります1)。
うつ病と腸内細菌には関係があった!最新の研究情報をご紹介
ここまでで、うつ病についての基本情報をご紹介しました。
ここからは、腸内フローラとうつ病の関連についてご紹介しましょう。
●うつ病と腸内フローラについての研究
実は、うつ病の発症メカニズムはまだはっきりとは解明されていません。
そのような状況の中、近年の研究から、腸内フローラがうつ病に関連する可能性があることがわかってきました。
ヨーロッパの人を対象とした2022年の研究により、酪酸産生菌を含む13種類の腸内細菌がうつ病と関連することが報告されており、うつ病患者ではその酪酸産生菌が減少していたことが示されています7)。
また、日本人を対象とした2023年の研究では、酪酸の産生に関わる以下の腸内細菌がうつ病患者で少ないことが示されました8)。
・アリスティペス(Alistipes)
・ブラウティア(Blautia)
・コプロコッカス(Coprococcus)
・ドレア(Dorea)
・フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)
・オシリバクター(Oscillibacter)
これらの研究から、腸内フローラが酪酸産生を介して宿主のうつ病状態に影響を与える可能性があることがわかってきています。
●うつ病と腸内フローラの関連性についての最新研究情報
本コラムを執筆している当社でも、うつ病と腸内フローラとの関連性について研究を行っており、2024年5月に論文を発表しました9)。
この研究では、うつ病患者では水素産生菌が少ないことを特徴とする腸内フローラのバランス異常(ディスバイオシス)が起きていることを明らかにしました。
具体的には、以下の菌が少なくなっていました。
男性:
・ブチリシモナス(Butyricimonas)
・ロンボウツィア(Romboutsia)
女性:
・ドレア(Dorea)
・アガトバクター(Agathobacter)
(男女には腸内フローラに性差があるため、性別によって水素産生菌の種類が異なったと考えられます)
水素は、生体内で酸化ストレスを緩和し、炎症の抑制に重要な役割を果たします。
また、うつ病患者では脳内に炎症が起きているといわれています。
つまり、うつ病患者の腸内に水素産生菌が少ないことで、脳内の水素濃度が低く、強いストレスなどにより引き起こされた脳内の炎症を抑制できない状態にある可能性があるのです。
(参考:プレスリリース「うつ病に関連する腸内細菌叢の異常と新たなうつ病リスクの推定方法に関する論文掲載」)
腸内の水素産生菌が十分であれば、うつ病によって引き起こされる脳内の炎症が抑制され、うつ病の改善・緩和につながる可能性があるといえるでしょう。
うつ病の新しい治し方~ディスバイオシスの改善
最新のうつ病と腸内フローラの関連についての研究からは、腸内フローラのディスバイオシスがうつ病の原因の1つとなっていることが考えられます。
このため、ディスバイオシスを改善することがうつ病の新しい治し方となる可能性があるのです。
まずは腸内フローラの状態を検査し、次に、その結果に基づいて食生活を改善するなどの適切な方法で腸内フローラの改善に取り組むことが良いでしょう。
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食生活の変化による腸内フローラの変化は2週間程度で実感できることもあります。
うつ病でお悩みの方は、早ければそれくらいの短期間で症状の改善を実感できる可能性がありますので、是非検討してみてください。
最後に
うつ病にはさまざまな症状があり、メカニズムもはっきりと解明されていないため、抗うつ薬などを使用した治療ではなかなか改善しないことがあります。
腸内フローラとうつ病の関連が明らかになってきた今、腸内フローラの改善がうつ病の改善につながる可能性があります。
まずはご自身の腸内フローラを検査して、異常がないかを確認してみてはいかがでしょうか。
参考文献
1)土岐茂 & 山脇成人. 日本耳鼻咽喉科学会会報 118, 829–832 (2015).
2)金沢徹文. 大阪医科薬科大学医学会雑誌 82, 34–37 (2023).
3)朴秀賢. 日本生物学的精神医学会誌 35, 10–14 (2024).
4)新開隆弘. 精神神経学雑誌 123, 75–80 (2021).
5)大坪天平. 女性心身医学 27, 154–158 (2022).
6)瀬木(西田)恵里. 日本生物学的精神医学会誌 32, 170–173 (2021).
7)Radjabzadeh, D. et al. Nat. Commun. 13, 7128 (2022).
8)Yang, Y. et al. Microorganisms 11, 2286 (2023).
9)Okuma, K. et al. Front. Psychiatry 15, 1382175 (2024).
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