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乳化剤は腸内環境が乱れる一因だった?!乳化剤の怖さとは

菌の真実

2025.09.30

「乳化剤」と聞くと、なんだか体に悪そう…と思う方もいるかもしれません。

乳化剤は、マヨネーズのように、本来混ざり合わない水と油をうまく混ぜ合わせる食品添加物です。

パンをふんわりさせたり、チョコレートをなめらかにしたりと、私たちの身近な食品には欠かせない存在です。

日本で使われている乳化剤は、国の厳しい安全基準をクリアしています。

しかし、近年の研究で「乳化剤が腸内環境に影響を与えるかもしれない」という新しい見解が報告され、注目を集めています。

今回のコラムでは、乳化剤の基本的な知識に加え、腸内環境になぜ悪い影響を与えるのかを具体的な研究結果もお示ししながら解説していきます。


乳化剤とは?その用途や種類を解説

乳化剤は、水と油のように混ざり合わないものを、均一に混ぜ合わせるための食品添加物です。

乳化剤の分子は、水になじみやすい部分と油になじみやすい部分の両方を持っているので、この両方の性質を利用して、本来混ざり合わないものをうまくつなぎ合わせる役割を果たします。

例えば、マヨネーズは、卵黄に含まれるレシチンという乳化剤の働きで、油とお酢が分離せずに混ざり合っています。

また、乳化剤には、ケーキをふんわり・しっとりさせるための起泡剤や、豆腐やジャムの泡を消す消泡剤など、さまざまな目的で使われています。

さまざまな種類の乳化剤がありますが、日本で最も多く使われているのはグリセリン脂肪酸エステルという乳化剤です。

その他にも、レシチン、サポニンやショ糖脂肪酸エステルがあります。

世界的には、ポリソルベート 80およびカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)が広く使用されています。

日本で流通している乳化剤は、国の厳しい安全審査をクリアしたものになるので、適正に使用される限り安全性は高いとされています。


乳化剤が健康に及ぼす影響

食品添加物として認められている成分については、通常の摂取量であればその危険性を心配する必要はないとされています。

しかし、中には健康に影響を与える可能性が報告されているものもあります。

例えば、グリセリン脂肪酸エステルやレシチンは、大豆や卵を原料にしているため、アレルギーを持つ人は注意が必要です。


●乳化剤は腸内環境にとってなぜ悪い?

乳化剤は、私たちの腸内環境に影響を与える可能性があるとして、近年注目されています。

2015年に発表されたマウスを使った研究では、マウスに乳化剤のCMCまたはポリソルベート80を12週間与え続けたところ、腸に炎症が起きたり、メタボリックシンドロームが誘発されたりすることが報告されました1)。

この研究では、乳化剤を摂取したマウスの腸の粘液層が薄くなり、腸内細菌のバランスが崩れた結果、腸の炎症やメタボリックシンドロームにつながった可能性が示されました。

この研究をきっかけに、乳化剤と腸内フローラの関係について、多くの研究が進められています。

近年の研究では、マウスではなくヒトにおいて、乳化剤が腸内フローラにどのような影響を与えているかを調査する研究も実施されています。

2022年にアメリカのペンシルベニア大学で行われた人間を対象にした研究では、健康な人を2つのグループに分け、一方には乳化剤(CMC)入りの食品を、もう一方には乳化剤を含まない食品を2週間食べてもらう比較試験が行われました2)。

その結果、乳化剤入りの食品を食べたグループでは、食後の腹部の不快感が増えたり、腸内細菌の多様性が低下し、短鎖脂肪酸の産生に関与するフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)の減少や、短鎖脂肪酸と遊離アミノ酸といった健康増進に寄与する代謝物の減少も確認されました。

さらに、通常無菌である腸を守る粘液層(内粘液層)に細菌が侵入していることも確認されました。

このような現象は、炎症性腸疾患やメタボリックシンドローム、がんなどの慢性炎症疾患でも報告されています。

また、マウスによる別の研究では、乳化剤により腸内フローラのバランスが乱れることで、認知機能の低下や、食物アレルギーの悪化につながる可能性も報告されています3),4)。

乳化剤が腸の炎症などの健康に影響を与えるメカニズムはまだ解明されていませんが、上述の例のように、複数の研究において、乳化剤の摂取により腸内フローラのバランスが乱れたり(ディスバイオシス)、腸管上皮バリアの変性が引き起こされる可能性が示されています。

腸管のバリア機能が低下すると「リーキーガットシンドローム」が引き起こされます。

リーキーガットシンドロームとは、腸の粘膜に穴が開いて菌や菌体成分のリポ多糖類(LPS)が血中に漏れ出す状態のことを指します。

そのような血液が全身を巡ることで全身性の慢性的な炎症が生じ、さまざまな不調や疾病を引き起こすとされています。
(コラム「さまざまな病気を引き起こす、ディスバイオシスに要注意!」参照)

つまり、乳化剤の摂取により大腸でリーキーガットシンドロームが引き起こされ、健康に悪影響を及ぼす可能性が考えられるのです。

しかし、これらの研究はあくまでも特定の乳化剤によるものであり、全ての乳化剤が腸内環境に悪い影響を与えることが示されているわけではありません。

一概にすべてを避ける必要はないと言えます。


●人工甘味料も腸内環境に悪い影響があるのか?

乳化剤と同じ食品添加物である甘味料も腸内細菌叢に影響を与えることが近年の研究で報告されています。

特に、人工甘味料に関する2025年に報告された研究では、人工甘味料により腸内炎症に関連する腸内細菌が増加することが明らかになっています5)。

人工甘味料が腸内細菌叢に与える影響についても今後の研究でその詳細なメカニズムが明らかになっていくでしょう。


まとめ

乳化剤は、食品の品質を安定させるために欠かせない存在です。

しかし、今回ご紹介したように、近年の研究では、特定の乳化剤が腸内環境や腸のバリア機能に影響を与える可能性が指摘されています。

「では、もう加工食品は食べない方がいいの?」と心配に思われた方もいるかもしれません。

しかし、現在の研究でわかっているのは、あくまでも特定の条件下での影響であり、全ての加工食品が体に悪いわけではありません。

たまに食べる分には、そこまで神経質になる必要はないでしょう。

それよりも、毎日口にする食事の質を高めることに目を向けてみることをおすすめします。

例えば、週に一度でも手作りの料理を増やしてみたり、コンビニ食を選ぶ際にでも原材料表示を確認して選んでみたり。

小さな積み重ねが、私たちの体と腸を健康に導いてくれます。

乳化剤をはじめとする日々の食生活によって腸内フローラの乱れが起こっていないか、気になる方は「健腸ナビ」でチェックすることもおすすめです。

健腸ナビ」では、乳化剤の摂取が関連するとされる、潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患のひとつ)や認知症など、30以上の病気のリスクがわかります。

また、腸内細菌叢のバランス評価などの情報から、腸内フローラの状態を可視化することができます。

健康維持や不調の原因を探りたい方、日々の食生活を改善したい方にとって、「健腸ナビ」は有効なセルフケアの手段となるでしょう。


参考文献
1)Chassaing, B. et al. Nature 519, 92–96 (2015).
2)Chassaing, B. et al. Gastroenterology 162, 743–756 (2022).
3)Zhang, L. et al. Brain Behav Immun 119, 171–187 (2024).
4)Zhang, J. et al. Food Funct 13, 8804–8817 (2022).
5)Kidangathazhe, A. et al. Front Microbiol 16, 1531131 (2025).



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