歯磨きで腸を守る?歯周病菌と腸内フローラの深い関係
菌と健康
「歯周病は口の中だけの病気」と思っていませんか?
実は、歯周病の原因となる細菌が腸内にも到達し、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを乱すことで、さまざまな全身の病気のリスクを高める可能性があることがわかってきました。
今回のコラムでは、歯周病菌と腸の関係について詳しくご説明します。
歯周病菌のグループの一つ「レッドコンプレックス」って何?
「レッドコンプレックス」とは、歯周病を引き起こす細菌の中でも特に病原性(病気を引き起こす力)が高い細菌グループの総称です。
1998年Socranskyらにより、歯周病菌は病原性ごとに6つのグループ(レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、パープル、ブルー)に分類されました¹)。
その中で最も病原性が高いグループが「レッドコンプレックス」と呼ばれています。
【3種のレッドコンプレックスに属する細菌】
・フォーサイシア菌(Tannerella forsythia)
・ジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)
・デンティコーラ菌(Treponema denticola)
この3種の細菌は互いに栄養を補い合う共生関係にあり、ほかの歯周病菌が増えた後に増殖する特徴があります2)。
これらが増殖すると歯周病が進行し、歯周組織の破壊が加速してしまいます。


歯周病菌が腸内フローラを乱す —— 口と腸の意外なつながり
歯周病が進行すると、出血した歯茎の血管から歯周病菌が全身に運ばれ、糖尿病や動脈硬化、早産、敗血症などを引き起こすなど、全身の健康に影響を及ぼすことが知られています。
さらに近年、口腔内細菌により腸内フローラが乱れることがわかり、注目を集めています。
唾液と一緒に飲み込まれた口腔内細菌が腸に到達することで、腸内フローラのバランスが乱れ、腸の粘膜バリア機能や免疫力が低下します。
その結果、有害な菌や物質が血中に侵入しやすくなり、大腸がん、炎症性腸疾患、脳卒中などの全身の病気のリスクが増加することが報告されています3)。
なぜ胃酸でも死なない?バイオフィルムが菌を守るしくみ
「胃酸があるのに、なぜ菌が腸まで届くの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
唾液と一緒に飲み込まれた細菌の多くは胃酸で死滅しますが、一部は腸まで生き延びます3)-6)。
その理由が「バイオフィルム」です。
バイオフィルムとは、細菌が作り出すネバネバの膜のこと。
歯周病菌は、歯周ポケットや歯の裏側など歯ブラシが届きにくい場所にバイオフィルムを形成し、その中に集団で潜み込みます。
このバイオフィルムは強固な構造をもっており、胃酸や抗菌剤にも耐性を示すため、そのまま腸まで到達してしまうのです。
さらに、胃酸抑制薬の長期服用やピロリ菌感染、ストレス、水分摂取による胃酸の希釈なども、菌が腸まで届きやすくなる要因となります。
歯周病菌が腸に届くと、どんな病気のリスクが高まる?
腸に到達した口腔内細菌は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、大腸がん、肥満、糖尿病、動脈硬化症、関節リウマチ、代謝異常関連脂肪性肝疾患【MASLD】(旧:非アルコール性脂肪性肝疾患【NAFLD】)などの病気を悪化あるいは誘発させる可能性があることが報告されています3),7)。
ある実験では、レッドコンプレックスの1つであるジンジバリス菌を経口投与されたマウスでは、腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)が生じ、インスリン抵抗性(血糖を下げるインスリンが効きにくくなる状態)や全身性の炎症が引き起こされたことが報告されています4)。
このことから、口の中の菌が、腸を経由して全身の代謝にまで影響を与えると言えます。
口と腸、両方からケアして病気のリスクを下げよう
●歯周病の予防 —— 健康管理の第一歩として
日本人の歯周病罹患率は非常に高く、30歳以上の成人の約80%が歯周病もしくはその予備軍と言われています8)。
日々の健康管理の一歩として、歯周病の予防・改善に取り組みましょう。
セルフケアの基本として、次の3つを実践しましょう。
・毎日の丁寧な歯磨き(食後と就寝前)
・歯間ブラシ・デンタルフロスによる歯垢除去
・舌磨き(舌の表面の「舌苔(ぜったい)」は歯周病菌の温床。専用の舌ブラシなど柔らかいブラシで優しく除去しましょう)
また、歯垢がバイオフィルム化してしまうと、自宅での歯磨きでは取り除くことが難しくなります。歯科医院での定期的なクリーニングも欠かさずに受けるようにしましょう。
●腸内フローラの改善
歯周病の治療をすることで口腔内の細菌を減らし、腸内フローラを改善できる可能性があります。
ある研究では、歯周病治療の3ヶ月後に腸内フローラが健康な人と同様の状態になったとの報告があります9)。
ただし、別の研究では治療後1〜3ヶ月では腸内フローラへの変化が確認できなかった例もあります10)。
そのため、歯周病の治療だけでなく、食生活や生活習慣を見直して腸内環境を整える取り組みを併せて行うことが大切です。
まとめ
口の中の細菌は、全てが悪い菌ではありません。
しかし、歯周病菌などの病原性細菌が増殖して口腔内フローラのバランスが崩れると、これらの菌が腸に到達し、腸内フローラのディスバイオシス(乱れ)を引き起こして全身の病気のリスクを高める可能性があります。
病気のリスクを高めないためには、日々の口腔ケアや定期的な歯科検診だけでなく、食生活や生活習慣を見直して腸内環境を整えることも大切です。
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参考文献
1)Socransky, S. S. et al. J Clin Periodontol 25, 134–144 (1998).
2)Mohanty R. et al. Journal of Family Medicine and Primary Care 8, 3480 (2019).
3)Kitamoto, S. et al. J Dent Res 99, 1021–1029 (2020).
4)Arimatsu, K. et al. Sci Rep 4, 4828 (2014).
5)Walker, M. et al. Nitric Oxide 73, 81–88 (2018).
6)Schmidt, T. S. et al. Elife 8, e42693 (2019).
7)Olsen, I. et al. Journal of Oral Microbiology 11, 1586422 (2019).
8)厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html
9)Baima, G. et al. J Dent Res 103, 359–368 (2024).
10)Miyauchi, E. et al. Journal of Oral Microbiology 17, 2499284 (2025).
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